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Channel: Cape Fear、in JAPAN
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小津のことば

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今週土曜より、小津安二郎の映画を4K画質で上映する企画が新宿で始まる。



とりあえず『晩春』(49)と『東京物語』(53)を観る予定。


自分は、あまり「小津映画の、よい観客」とはいえない。

作品そのものも、30%・・・いや20%くらいしか理解出来ていないのではないか。

それでも、高校生のころよりは分かっているつもりでいる。

当時は黒澤ダイナミズムに感激し、
俳優たちが怒鳴り散らし、それに呼応するかのように天気も大荒れ、
これが映画だ、映画のすべてだ! と思っていたところがあったから。

あったから、小津が紡ぐ物語は退屈に感じた。

天気はのどかだし。
俳優たちは、怒鳴ることなんかないし。

なんかいっつも、家庭で起こる些細な話ばっかりだし。

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「私は豆腐屋のような映画監督なのだから、トンカツを作れといわれても無理で、せいぜいガンモドキぐらいだよ」

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自虐的でありながら、それでいて自尊心の強さをも感じさせる、じつに魅力的なことばだなぁ! と、いまなら思える。


この映画は、この監督は、じつはとんでもないことを成し遂げたのかもしれない―そんな風に戦慄したのは、28歳くらいのころ、『東京物語』を再鑑賞したときだった。

それまで退屈と思っていたこの物語が、冒頭から緊張感に包まれていることに気づいた。

そうして、小津作品のほとんどを再見し始めた。

自分はなにを観ていたのだ!? とショックを受けたなぁ。


小津映画で、登場人物が死ぬことは「まず、ない。」とされてきた。

しかし。
『東京物語』では、平山周吉(笠智衆)の妻・とみ(東山千栄子)が死ぬ。

「ありがと」のアクセントが、とってもかわいいおばあちゃん。


この展開を作った小津は、映画を発表して以降もずっと「ばあさんを殺してしまった…」と悔いていたという。


胸を打つエピソードだなぁ・・・。


いままで短編を含めて40作ほどシナリオを書いてきたが、自分は、自分が生み出したキャラクターに対し、そこまで愛情を抱いたことがないのだもの。

だから。
このエピソードを知って以降は、自分のダメさ加減を痛感するために『東京物語』を「何度も何度も」観るようになったのだった―。



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明日のコラムは・・・

『炭と美白』

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